2009/07/17

『海神別荘』



2009年7月 歌舞伎座 昼の部


『海神別荘(かいじんべっそう)』 


私の神であり、MG(マイ・ゴッド)こと泉鏡花先生のとんでもない戯曲の舞台化、それが『海神別荘(かいじんべっそう)』です。原作だけでも十分「?!」なのですが、それが実際に役者に演じられるとさらに「?!?!?!(笑)」なカンジに。3年前に歌舞伎座で見たとき、あまりの感激のためにブログで長文レポートするはめになったので、ぜひそちらもご覧ください→こちら

と、それだけで終わりにしたいのは山々なんですが、せっかくなのでこちらでもサラっと書きます。っていうか、サラッと書けないんですよね~~。あまりに世界が濃すぎて、っていうか好きすぎて。



主人公は、海老蔵ふんする「公子(こうし)」。海の底に住む、王子さまです。ちなみに、竜宮城の乙姫さまの弟にあたるのだそう(笑)。で、この公子さまがまた濃いキャラクターで、彼のやりたい放題&言いたい放題っぷりが、この作品の見どころ(たぶん)。

この王子さま、陸に住む人間の女、玉三郎ふんする「美女」(という役名ですが、何か?)に一目惚れ。「どうしてもあの女を自分のものにする!」ということで、強引に自分の妻として迎えることに。どこの国も王子さまっていうのは、無邪気にワガママですね(笑)。

で、その美女が白竜(という動物です念のため)に乗ってユラユラと海の中をやってくるようすを、公子たちはマジックミラー(のようなもの)でじっくりご鑑賞。と、そばにいた僧が、公子に向かって、「あんなふうに道中して来るようすは、まるで罪人として市中を引き回しになった女のようで、不吉だ… まるで、恋しい男に会いたいばかりに放火して磔(はりつけ)になった、八百屋お七のようじゃないか…」と、不吉発言。それを聞いた公子、キリリとした顔で、

「(八百屋お七は)私は大すきな女なんです。御覧なさい。どこに当人が嘆き悲しみなぞしたのですか。人に惜しまれ可哀(かわい)がられて、女それ自身は大満足で、自若(じじゃく)として火に焼かれた。得意想うべしではないのですか。なぜそれが刑罰なんだね。もし刑罰とすれば、それは恵(めぐみ)の枝、情(なさけ)の鞭だ。実際その罪を罰しようとするには、そのまま無事に置いて、平凡に愚図愚図に生ながらえさせて、皺(しわ)だらけの婆(ババ)にして、その娘を終らせるがいい」(原文ママ)

ひゃ~~、バ、ババ…なんて思ってる間もなく、美女到着。が、もの凄くイカツい鎧(よろい)を身につけた公子を見て、美女、「おそろしゅうございます…」と怖がるばかり。そこで公子、またもやキリリとした顔で、

「はははは。私は、この強さ、力、威があるがために勝つ。閨(ねや)にただ二人ある時でも私はこれを脱ぐまいと思う。私の心は貴女を愛して、私の鎧は、敵から、仇から、世界から貴女を守護する。弱いもののために強いんです。(中略)女の身として、やさしいもの、媚(こび)あるもの、従うものに慕われて、それが何の本懐です。私は鱗をもって、角をもって、爪をもって愛するんだ。 …鎧は脱ぐまい、と思う」(原文ママ)

ふわぁ~~、せっかく美女が目の前にいるのに、脱がないんだ…なんて呆れる間もなく、美女は大きな椅子に導かれ、その大きな椅子がなんと海の宝石「珊瑚」でできていることを教えられます。ビックリした美女、公子が自分の親に(身代金代わりに)贈ってくれた珊瑚の枝もかなりの大きさだったけど、その何倍もあるわぁ…うわぁ…とビビっていると、公子、またもやキリリとした顔で、

あれは草です。

ひょぇ~~、珊瑚は、草かぁ…なんて腰を抜かしている間もなく、美女は自分がもう「人間の体ではなくなり、人間からは単なる蛇体にしか見えない」状態になっているということを知り、嘆きます。悲しいことが大嫌いな公子は美女を慰めますが、美女はひたすら泣き続けるばかり。すると公子、またもやキリリとした顔で、

女、悲しむものは殺す。

ギョエ~~((c)楳図かずお)、悲しんだだけで殺されるーーと思う間もなく、美女は大きな碇にグルグル巻きに縛られて、磔(はりつけ)の刑。結局、美女は、八百屋お七のように処刑される運命なのか?! 公子、大きな剣をふりかざし、正面から美女に構える。危うし美女! と、

美女 「ああ、貴方(あなた)。私を斬る、私を殺す、その顔のお綺麗さ、気高さ、美しさ、目の清(すず)しさ、眉の勇ましさ。はじめて見ました、位の高さ、品のよさ。もう故郷も何も忘れました。早く殺して。ああ、嬉しい(ニッコリ)」

公子 「解(と)け」


えええ~~~~?! と思う間もなく、美女と公子は手に手をとって、ともに互いの血を落とした杯を飲み交わし。


美女 「ここは極楽でございますか」

公子 「ははは。そんなところと一緒にされて堪(たま)るものか。おい、

女の行く極楽に男はおらんぞ。

男のいく極楽に女はいない 


(幕)



ひゃ~~~~! としか言いようのない名(迷)セリフと凄まじい展開に、シビレまくり! 私にとっては、男がいようが女がいようが、こんなとんでもなく凄まじい作品(名(迷)言王子と面食い女の話)がこの世に名作として存在し、かつ大金をかけて舞台化されるという、そんな現実がすでに極楽!!! ここまで頑張って生きてきてよかった。この世の全ての人々と現象(?)に感謝します。



上記の演目、まだ上演中(7月27日まで)。この世の極楽を堪能するためにも、ぜひ皆さま、一幕見席でもいいので行ってみてくださいね! 海老蔵の滅茶苦茶な王子っぷり、必見です。